新・北本創生へのイノベーションを探る連載(5回目, 最終回)
「盲信」による誤った選択と集中から現実に対応したイノベーションに活路を
連載の1回目から4回目まで読んでいただき感謝申し上げます。ここまでは、私の感情でなく、データから読み取った事実を基に述べてきました。
北本市の再生、新しい北本創生には、事実から目をそらし合理的根拠の希薄な、政治家個人の思い付きによる「盲信」でなく、事実に基づく根拠を明確にし、現実を確認した合理的な「選択と集中」へと転換させ、イノベーションに活路を求めて行くべきです。
現実無視の“盲信”による選択と集中は、まさに間違った一生懸命で「幽霊に大砲を打ち込む」ようなもので、成果が得られないのは当然の帰結です。ここまでの4回述べたことをもとに、現実(事実)に対応したイノベーションについて述べます。
皆様のご意見をお待ちしています。
子育て支援で驚異的な回復
北本市の少子高齢・人口減少については、第1回から4回までの論考でおおよその傾向を述べました。ここでは、この問題の本質を探り、その対策について考察します。
まずは、少子化と若者の動態についてです。
少子化(出生率)の改善は、一地方自治体の政策では極めて困難であります。このような中で沖縄県は、1人の女性が生涯に産む子どもの数を推定する合計特殊出生率が1.95で32年連続で全国1位となっています。
一方なぜか、離婚率も14年連続全国第1位でした。相関関係があるかはわかりません。
また、過疎地の自治体(岡山県奈義町)が、特殊出生率を2.81と驚異的に伸ばした事例もあります。平成の大合併から取り残され、人口減少に対応するため徹底した子育て支援政策を実行した結果だそうです。
兵庫県明石市も同様に子供と人口を伸ばしました。
財源生出し子育てに集中投資
共通しているのは、合理的な裏付けをもとに財源を、子育て支援に「選択と集中」した首長の政治決断です。
それを国家政策で行い、出生率を驚異的に回復させたのがフランスです。
消費税引き上げで保育料・幼稚園授業料無償化を言いながら、一部を地方自治体にも負担させようと「せこい」考えでは日本の少子対策では、V字回復は難しいでしょう。
私は、子育て支援の新しい政策に、まとまった財源を生み出し、子育て世帯の経済的負担の軽減と子育てを社会の責任、働くことととの両立、子育てが親の自己実現につながる文化・環境をつくることが重要と考えています。
子ども子育て・若者・女性支援にイノベーション
高度経済成長時の残像から決別し現実を直視した子育て世帯支援
北本市の人口動態で、当面の課題は人口減少ではなく、人口の年齢構成(バランス)です。
すでに述べた人口推計でも、子どもと若者の減少が明らかになっています。高齢者はやがて自然に減少していくはずですから、政策で意図的に人口動態を動かすとしたら、子どもと若者を減らさない・増やす政策誘導がカギを握っています。
子ども若者へ優先投資
その具体的な個別の政策は後にしますが、基本方針は次のものを考えています。
子どもと子どもを育てる家庭が100%「安全・安心・満足」できる“子ども子育て応援”体制の構築
もはや目先の子育て支援では、子育て中の人たちへの定住・移住のインセンティブにはならないでしょう。
総務省「家計調査」で、1998年の2人以上の勤労世帯の可処分所得が76万円であったが、20年後の2017年、67万円と約11%ダウンしています。
これでは、子どもを育てる経済環境は、極めて厳しいと言えます。国の政策転換を待っていると、地域が成り立たなくなってしまいます。
財政投資の対象は、成長性のある子ども若者へと集中させるべきです。
雇用創出と所得安定、企業所得の成長で停滞突破
連載第4回目で、北本市の産業生産額と市民所得を紹介しました。
市の主要産業は「金融・不動産業」で、サービス業、卸小売業を抜いています。平成10年214憶円でしたが平成26年は約倍の412憶円です。
製造業、建設業は横ばいで、第一次産業の農業は総生産額の0.4%で産業と言えない状況です。
こうしてみますと、今後の北本市の産業強化は、製造業の企業誘致が必要です。それも下請などのすそ野の広い業種が求められます。
また大型店なども土地の賃貸で不動産業が伸びます。
しかし、近年の製造業の進出は、市内雇用に積極的なインセィテブが働きにくく、若者の就労機会確保と人口増加につながるか不透明です。それでも、固定資産税と法人市民税の増加になり、歳入確保策としては歓迎されます。
次の市民所得ですが、平成26年雇用者所得が第一位で1,266憶円です。総所得の68.5%ですが、平成10年2,085憶円(85.2%)から、約800億円減少しています。
企業所得455億円(24.7%)は、平成10年280憶円(11.5%)に比べ1.6倍増加しています。内訳では、民間法人企業が248憶円、個人企業が201憶円なっていますが、平成10年は民間法人企業が62億円、個人企業が223憶円であることから見ると、法人企業の所得がこの16年で3.8倍と大きく上昇しています。
製造業の生産額に大きな変動がない中で、市民所得において民間法人企業が大きく伸びていることをさらに成長させる必要があります。
市は現在第二次産業振興ビジョンを策定していますが、どの分野に活路を見つけるか、関心をもって推移を見ています。次の構造改革の項で、私の基本的な考察を述べます。
新産業創出と起業による産業イノベーションを
北本市の成長戦略には、市政の構造転換(市政のイノベーション)が必要です。
これまで、地方自治体の産業政策又は地域活性化には、地域特性を基礎にその有効活用に活路を求めてきました。北本市も例外ではありません。
私は2003年に議員になり、地域特性や既存産業にこだわらない、新しい経済産業政策で「飯が食えるまちづくり」を提案したことがあります。
しかし、埼玉県主導で圏央道開通を起爆剤とした、企業誘致が先行していました。
企業誘致これまでも難産
その結果、菓子製造業(グリコ)が進出することになりましたが、その後は一服感があり企業誘致は進んでいません。
先ほども述べたように、市は平成30年度から企業誘致担当を配置し、企業誘致に取り組んでいます。
しかし、製造業・物流業等の企業誘致には、一定規模の用地を必要とします。北本市の都市計画における用途地域は、市の面積(19.84k㎡)の63.7%が市街化調整地域で、工業専用・準工業は2.6%となっていますので、用地の確保が最大の課題です。
菓子製造業の誘致の時は、市が企業誘致条例で奨励金の交付などのインセンティブを付けました。また埼玉県が企業誘致大作戦と、市街化調整地域(農地)の用途変更に力を出し進出につなげました。
また、北里大学メディカルセンターにワクチン製造業が立地し、税収増と地域雇用に貢献していますが、市が誘致したということではないので、例外的な事例です。
地域特性にこだわらない発想を
さて、北本市の地域特性を活用した経済産業政策についてですが、結論的に言えば大きく飛躍する成長につながる特性があると言えないと思います。
あえて言えば、首都圏に近く、近年は圏央道の全面開通による交通体系の優位性があります。緑を中心として自然景観の活用の可能性はありますが、現状では限定的と言えます。
私はこれまでも、地域特性については活用すべであるが、現状における北本市の「地域特性」では、成長に向けたインパクトある政策は難しいと考えています。全く無視する必要はないが、これにこだわる必要もないでしょう。
若者女性で新産業起業
少子高齢、人口減少、市税収入の減収という直近の課題に対応するとしたら、これまで進めている市内地場産業の革新と企業誘致。それに「新しい産業の創出(起業)」で、域外マネーの獲得を加える必要があります。
それには、市内外の起業家の誘致、市内に住むシニア起業のスタートアップ環境整備進める「新産業のイノベーション」が必要です。
福岡市は学校の廃校で起業支援をし、数十者の起業が活動し成果を上げています。いずれにしても、「起業誘致と起業立地」に次の活路を見出すことが重要です。
そのために、北本市としての「新・産業政策」を構築し、ファンド(SIB等)、起業相談体制、起業プレゼンテーション機会、スタートアップセンター設置等の起業環境の整備を進め、若者、シニア、女性が新しい知識と技術を使った、新しい発想で新産業の起業をジャッキアップさせるべきです。
北本市に若者が興味を持ち、定住に向けたインセンティブとして、若者・女性の自己実現をサポートすべきです。
編集後記(連載のまとめ)
問題提起をさせていただきました。
里山資本主義の著書で著名な藻谷浩介氏は、ある講演で「事実に基づかない誤った選択と集中」は、全力で間違った方向に行くことになる。それは大企業や政府、地方自治体に多く見られると話された。
また、議員は「無謬の行政」という幻想に惑わされていると、ある女性講師が講演で語られた。
この二つの話で、自分がこれまで犯したかもしれない政治判断を悔いた。もっときちんと事実を確認すべきであると思い、今回は市の統計や実数を改めて検証することにした。それで5回の連載にまとめ、読んでいただいた。
経済産業振興は、基本「民力」で行うもので、市民の税金を経済活動に投入すれば「大名商売」になりがちである。政治は民力が動きやすい環境整備に。(工)